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Aさんは、インターネットで化粧品を仕入れ、これをネット上で転売していました。
ある日、Aさんのところに〇〇警察署から、電話がかかってきて、出頭を求められました。容疑は、薬機法違反でしたが、Aさんは、どうして自分が呼び出されたのかよくわかりません。
この案件ですが、私が実際に警察に情報提供を行い、〇〇県警察本部及び所轄の警察署が捜査を開始した事案です。
Aさんは、仕入れた化粧品をネット上で転売するに当たり、化粧品に認められた効能効果(化粧品では、56の効能効果が認められています。)
https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tb7518&dataType=1&pageNo=1
を超えた効能効果をうたっていたほか、薬機法上、やってはならないあることをしてしまっていました。
薬機法上、やってはならないあること、については、ここで公表してしまうと、そのような手段を回避して転売をする方が出てきてしまう可能性がありますので、詳細を記載することは差し控えますが、化粧品については、薬機法第13条(医薬品、医薬部外品又は化粧品の製造業の許可を得た者でなければ、それぞれ、業として、医薬品、医薬部外品又は化粧品の製造をしてはならない。)で、許可を得た者しか化粧品の製造をしてはならないとされています。
問題は、この「製造」です。この製造は、文字どおり、化粧品を作ることだけが該当するわけではありません。転売に当たって行うことがある、様々なことがこの「製造」に該当します。私は、転売に困った事業者様から、ご相談を受けることがよくあるのですが、事情をお伺いし、もし、転売ヤ―が薬機法に触れる行動をとっていた場合、すぐに証拠を保全し、警察署に情報提供を行っています。元東京地検特捜部の検察官としての経験を生かして、迅速、適切に対処しており、これまで、私の情報提供により捜査が開始された案件は多数あります。
さて、Aさんに話戻しますと、Aさんは、複数回、警察署に呼び出され取調べを受けました。地方の警察ですと、薬機法違反被疑事件の捜査を行った経験がないケースもあるのですが、当職も積極的に法解釈等についてのサポートを行い、捜査は着々と進んでいき、有罪に持ち込めるだけの証拠が集まりました。
薬機法13条違反の場合、罰則は、1年以下の懲役もしくは100万円以下の罰金、またはこれらの併科です。
どのような刑罰が科せられるかは、法律違反を犯した者の前科、前歴、犯情等によって大きく左右されます。
Aさんについては、最終的な処分が報道されず、警察からも情報提供がなかったので、はっきりしたことは分かりませんが、どのような結果になったにせよ、もう二度と同じことはしないと思っているに違いありません。
Aさんは、自分のやったことがまさか薬機法で禁じられた一線を越えているなどとは全く分かっていなかったはずです。
しかし、刑事司法の世界では、「法律の不知は罰する」のが当然です。
法律を知っていようといまいと、法律が引いた一線を越えた瞬間、罪を犯したこととなり、警察や検察の捜査の対象となります。
私は、検察官として、被疑者の行動を確認したり、朝一で被疑者の家の前に張り込み、在宅を確認してガサに入り、被疑者を検察庁まで任意同行した上、逮捕するなどしてきました。
朝、家族のいる中で、自宅に多数の捜査官が入ってきて、家じゅうをかき回されるショック、そのまま捜査車両に載せられ、その後、手錠をかけられる恐怖、そのような被疑者を目の前で見てきました。
皆、信じられない、といった表情をしますし、理解できない、どうしてかと口に出して尋ねる被疑者もいました。
超えてはならない一線を越えているので、こちらからすれば当然なのですが、本人たちは一線を越えた自覚がないのです。
転売についても、知らないうちに一線を越えている場合があり、私は、クライアントのため、転売ヤーがその一線を少しでも超えてくれるのを手ぐすね引いて待っています。