インターネットの発展に伴い、実店舗に行かなくとも、商品の購入や販売ができるようになりました。また、インターネットオークションやフリマサイトなども広く普及するようになり、より気軽に商品の購入や販売ができるようになりました。
こうした変化に伴い、転売する商品によっては法律違反になり、罰則が科せられるケースもあります。
そこで、本記事では、転売を行っている人を対象に、転売行為に潜む法律違反のリスクについて解説します。
転売とは、商品を購入し、その購入した商品を他の人に売ることをいいます。
転売といえば、定価で仕入れた新品の商品を、定価よりも高値で売る行為をイメージする人も多いかと思いますが、中古で仕入れた商品を、他の人に売ることも転売にあたります。
最近では、いわゆる“転売ヤー”と呼ばれる人が問題視されています。転売ヤーは、品薄になりそうな商品を購入し、高値で売るため、商品によっては、適正な価格で一般の消費者に商品が届かないという問題も生じています。
最近では、ライブのチケット、スニーカー、ゲーム機、プラモデル、トレーディングカード、フィギュアなど、様々な商品が転売ヤーのターゲットにされています。
新型コロナウイルスの流行当初は、マスクやアルコールが転売ヤーの標的にされ、社会問題にもなったのは記憶に新しいでしょう。
転売は、消費者だけでなく、事業者にも悪影響を及ぼす可能性がある行為で、ケースによっては、法律的な問題が生じる可能性があります。
一概に転売といっても、様々な商品が転売の対象となります。
転売する商品によって、問題となる法律が変わってきますので、以下では、転売の対象となりやすい商品である、チケット、医薬部外品及び中古品を例に、問題となる法律を紹介します。
人気のアーティストのライブチケットなどでは、たびたび転売が問題となり、マスコミに取り上げられることがあります。
そのため、転売というと、チケットをイメージする人も多いと思います。
チケットの転売については、「特定興行入場券の不正転売の禁止等による興行入場券の適正な流通の確保に関する法律」(以下「チケット不正転売禁止法」といいます。)との関係が問題となります。
チケット不正転売禁止法は、令和元年6月14日に施行された法律で、比較的新しい法律です。
このチケット不正転売禁止法では、チケットを転売する行為の全てが禁止されているのではなく、チケットの転売のうち、以下の第2条第4項及び第3条並びに第4条に該当するケースが禁止の対象になります。
第2条第4項
この法律において「特定興行入場券の不正転売」とは、興行主の事前の同意を得ない特定興行入場券の業として行う有償譲渡であって、興行主等の当該特定興行入場券の販売価格を超える価格をその販売価格とするものをいう。
第3条
何人も、特定興行入場券の不正転売をしてはならない。
第4条
何人も、特定興行入場券の不正転売を目的として、特定興行入場券を譲り受けてはならない。
上記の条文から、以下の要件に抵触する転売が、チケット不正転売禁止法で禁止された転売といえます。
上記では、「業として」と説明しましたが、「業として」とは、他の言い方でいえば、「利益を得るために、反復継続して行っている」ということです。
そのため、例えば、友達とライブに行くためにチケットを2枚購入したが、友達に急用が入り、友達がライブに行けなくなってしまったため、友達の分のチケットを定価以下で転売するようなケースでは、不正転売と評価される可能性は低いといえます。
なお、不正転売を行った場合、以下の第9条第1項により、1年以下の懲役若しくは100万円以下の罰金、又はその両方が科せられる可能性があります。
第9条第1項
第三条又は第四条の規定に違反した者は、一年以下の懲役若しくは百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
医薬品については、医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(以下「薬機法」といいます。)による規制により、販売を行う場合には、許可を得る必要があります。
一方、制汗剤や入浴剤などの医薬部外品については、医薬品と異なり、転売自体は、薬機法で禁止されていません。
ただ、医薬部外品の転売を行う際には、薬機法上の以下の規制との関係が問題となります。
薬機法では、以下の第66条で、誇大広告等を禁止しています。
(誇大広告等)
第六十六条 何人も、医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器又は再生医療等製品の名称、製造方法、効能、効果又は性能に関して、明示的であると暗示的であるとを問わず、虚偽又は誇大な記事を広告し、記述し、又は流布してはならない。
2 医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器又は再生医療等製品の効能、効果又は性能について、医師その他の者がこれを保証したものと誤解されるおそれがある記事を広告し、記述し、又は流布することは、前項に該当するものとする。
3 何人も、医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器又は再生医療等製品に関して堕胎を暗示し、又はわいせつにわたる文書又は図画を用いてはならない。
そのため、例えば、医薬部外品の転売を行う際、医薬部外品の効能について認められていない効能を記載したり、また、実際には医師により効能が保証されているわけではないのに保証された旨を記載したりすると、薬機法66条に違反することになります。
薬機法では、以下の第59条で、医薬部外品の容器や包装に、法定された事項を記載することが義務付けられています。
(直接の容器等の記載事項)
第五十九条 医薬部外品は、その直接の容器又は直接の被包に、次に掲げる事項が記載されていなければならない。ただし、厚生労働省令で別段の定めをしたときは、この限りでない。
一 製造販売業者の氏名又は名称及び住所
二 「医薬部外品」の文字
三 第二条第二項第二号又は第三号に規定する医薬部外品にあつては、それぞれ厚生労働省令で定める文字
四 名称(一般的名称があるものにあつては、その一般的名称)
五 製造番号又は製造記号
六 重量、容量又は個数等の内容量
七 厚生労働大臣の指定する医薬部外品にあつては、有効成分の名称(一般的名称があるものにあつては、その一般的名称)及びその分量
八 厚生労働大臣の指定する成分を含有する医薬部外品にあつては、その成分の名称
九 第二条第二項第二号に規定する医薬部外品のうち厚生労働大臣が指定するものにあつては、「注意―人体に使用しないこと」の文字
十 厚生労働大臣の指定する医薬部外品にあつては、その使用の期限
十一 第四十二条第二項の規定によりその基準が定められた医薬部外品にあつては、その基準において直接の容器又は直接の被包に記載するように定められた事項
十二 前各号に掲げるもののほか、厚生労働省令で定める事項
そのため、例えば、法定された事項を削除した上で、医薬部外品の転売を行うと、薬機法59条に違反することになります。
薬機法第59条第1項又は第3項に違反した場合には、以下の第85条第4号により、2年以下の懲役若しくは200万円以下の罰金又はその両方が科される可能性があります。
第八十五条 次の各号のいずれかに該当する者は、二年以下の懲役若しくは二百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
一 第三十七条第一項の規定に違反した者
二 第四十七条の規定に違反した者
三 第五十五条第一項(第六十条、第六十二条、第六十四条、第六十五条の四及び第六十八条の十九において準用する場合を含む。)の規定に違反した者
四 第六十六条第一項又は第三項の規定に違反した者
五 第六十八条の規定に違反した者
六 第七十二条の五第一項の規定による命令に違反した者
七 第七十五条第一項又は第三項の規定による業務の停止命令に違反した者
八 第七十五条の二第一項の規定による業務の停止命令に違反した者
九 第七十六条の五の規定に違反した者
十 第七十六条の七の二第一項の規定による命令に違反した者
中古品の転売については、「古物営業法」との関係が問題となります。
古物営業法は、金券ショップやリサイクルショップを営むのに必要で、法律名自体は耳にしたことはなくても私達の身の回りで接することが多い法律です。
古物営業法では、「古物営業」を行う場合には、都道府県公安委員会(以下「公安委員会」といいます。)の許可を受ける必要があります(古物営業法第3条)。
古物営業については、以下の古物営業法第2条第1号及び第2号で規定されています。
2 この法律において「古物営業」とは、次に掲げる営業をいう。
一 古物を売買し、若しくは交換し、又は委託を受けて売買し、若しくは交換する営業であつて、古物を売却すること又は自己が売却した物品を当該売却の相手方から買い受けることのみを行うもの以外のもの
二 古物市場(古物商間の古物の売買又は交換のための市場をいう。以下同じ。)を経営する営業
転売ヤーは、インターネットオークションやフリマサイトで商品を転売するケースが多いと考えられますので、上記の第2号よりも、第1号との関係が問題となるケースが多いと考えられます。
古物を売却することのみを行うこと、つまり、自宅にある不用品等をインターネットオークションやフリマサイトで販売する場合では、古物商の許可は不要と考えられます。
一方、転売をするために商品を仕入れて、ビジネスを行う目的で、繰り返し転売を行うようなケースでは、古物商の許可が必要となります。
古物商の許可を得た場合でも、商品を仕入れる場合には、以下の第15条第1項で規定されるように、法定の事項の確認を行う必要があります。
(確認等及び申告)
第十五条 古物商は、古物を買い受け、若しくは交換し、又は売却若しくは交換の委託を受けようとするときは、相手方の真偽を確認するため、次の各号のいずれかに掲げる措置をとらなければならない。
一 相手方の住所、氏名、職業及び年齢を確認すること。
二 相手方からその住所、氏名、職業及び年齢が記載された文書(その者の署名のあるものに限る。)の交付を受けること。
三 相手方からその住所、氏名、職業及び年齢の電磁的方法(電子的方法、磁気的方法その他の人の知覚によつて認識することができない方法をいう。以下同じ。)による記録であつて、これらの情報についてその者による電子署名(電子署名及び認証業務に関する法律(平成十二年法律第百二号)第二条第一項に規定する電子署名をいい、当該電子署名について同法第四条第一項又は第十五条第一項の認定を受けた者により同法第二条第二項に規定する証明がされるものに限る。)が行われているものの提供を受けること。
四 前三号に掲げるもののほか、これらに準ずる措置として国家公安委員会規則で定めるもの
インターネットオークションやフリマサイトでは、匿名での配送が可能なケースもあり、確認すべき事項が確認できないケースもあります。
その場合、確認義務を行ったものとして、古物営業法の違反となる可能性があります。
さらに、扱っている商品について、不正品の疑いがあると認められるときは、以下の第15条第3項により、直ちに、警察官にその旨を申告する必要があります。
3 古物商は、古物を買い受け、若しくは交換し、又は売却若しくは交換の委託を受けようとする場合において、当該古物について不正品の疑いがあると認めるときは、直ちに、警察官にその旨を申告しなければならない。
以上、転売行為を行っている人を対象に、転売行為を行った場合、法律的にどのような問題が生じ得るかを解説しました。転売する品によっては法律に抵触し、犯罪となってしまうことがあります。
ハイリスクな転売を行うよりも、法律に従って、安心に取引を行うことができるサイトを利用した方が、無駄なトラブルに巻き込まれることなく、適正に利益を得ることができます。