転売行為は、法律違反となり、罰則が科せられるケースもあります。本記事では、初回購入の特別割引制度を悪用し、同一人物が何度も初回割引で商品を購入し、転売を行うなど、特にハイリスクな転売の事例を紹介しつつ、具体的な法律問題や悪質な転売行為に対して、事業者はどのように対応するべきかという点についても解説します。
目次
転売ヤーの中には、悪質な行為をに及ぶ転売ヤーもいます。
具体的には、以下のような悪質な行為があります。
本記事では、定期販売がされる商品について、初回購入の特別割引を利用し商品を安く購入し、購入した商品を転売し、2回目以降の商品の支払いを行わないケースを例に、そのような行為の違法性や行われた場合の対処法について、説明をします。
販売されている商品の中には、消費者が定期的に商品を購入してくれることを前提に、初回購入のみ特別割引がされているケースがあります。
このように、初回購入の特別割引がなされる趣旨は、初回の購入を割引し、消費者の購買意欲を刺激して、商品を認知してもらうことや、定期購入の見返りとして、割引をするなどの理由が考えられます。
転売ヤーの中には、この仕組みを悪用し、商品を安く仕入れるという悪質な者もいます。
具体的には、2回目以降の支払いについては、登録したクレジットカードでの決済が行えないようにし、2回目以降の支払いを免れるというものです。
初回購入の特別割引の中には、大幅に割引が行われるケースもあり、転売ヤーは、次々と新しいアカウントを作成し、商品を安く仕入れます。
アカウントを登録する際、商品が発送されてくる関係上、住所を登録する必要がありますが、転売ヤーは、商品が届く範囲で住所の記載を微妙に変え、別の住所と認識されるように工夫します。
例えば、以下のように住所の記載を変化させます。
上記のような行為が行われた場合、販売者としては、2回目以降も購入されると考えて初回の割引価格で商品を販売しています。これに対して転売ヤーは、2回目以降を購入するつもりがないのに、2回目以降も購入するかのように騙して初回の購入を行っているので、以下の刑法第246条の詐欺罪が成立する可能性があります。
(詐欺)
第二百四十六条 人を欺いて財物を交付させた者は、十年以下の懲役に処する。
2 前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。
また、転売ヤーにより上記のような悪質な行為が行われた場合、販売者の従業員や担当者は、対応を行うことを強いられ、業務の円滑な遂行に支障が生じる可能性があります。そのため、以下の刑法第233条の偽計業務妨害罪が成立する可能性があります。
(信用毀損及び業務妨害)
第二百三十三条 虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて、人の信用を毀損し、又はその業務を妨害した者は、三年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
転売ヤーが悪質な行為を行った場合、販売者としては、以下の対応を行うことが考えられます。
以下では、それぞれの方法について、方法毎に詳しく説明をします。
転売ヤーに、定期販売の初回購入の特別割引が悪用された場合、前述のように、詐欺罪や偽計業務妨害罪が成立する可能性があります。
そのため、販売者としては、管轄の警察署や最寄りの交番で相談を行い、被害届を提出することが考えられます。
被害届の提出に関しては、以下の犯罪捜査規範第61条で規定されています。
(被害届の受理)
第六十一条 警察官は、犯罪による被害の届出をする者があつたときは、その届出に係る事件が管轄区域の事件であるかどうかを問わず、これを受理しなければならない。
2 前項の届出が口頭によるものであるときは、被害届(別記様式第六号)に記入を求め又は警察官が代書するものとする。この場合において、参考人供述調書を作成したときは、被害届の作成を省略することができる。
被害届の提出については、口頭で行う方法でも、書面を提出する方法でも行うことができます。
ただ、被害届が提出されても、実際に捜査を行うか否かは、警察の判断です。そのため転売ヤーの悪質な行為による被害が軽微なものに過ぎない、また、詐欺や偽計業務妨害罪の成立を裏付ける証拠が乏しい場合には、警察が捜査を行わない可能性もあります。
また、ケースによっては、被害届の受理がなされない可能性もあります。
被害届ではなく、告訴状を提出する方法も考えられます。
告訴状が提出されると、被害届と異なり、警察に捜査を行うべき義務が生じることになります。
また、告訴状の提出については、被害届の提出と同様、口頭で行う方法でも、書面を提出する方法でも行うことができます。
告訴状に関する根拠条文は、以下の刑事訴訟法第241条、刑事訴訟法242条及び犯罪捜査規範第63条です。
第二百四十一条 告訴又は告発は、書面又は口頭で検察官又は司法警察員にこれをしなければならない。
② 検察官又は司法警察員は、口頭による告訴又は告発を受けたときは調書を作らなければならない。
第二百四十二条 司法警察員は、告訴又は告発を受けたときは、速やかにこれに関する書類及び証拠物を検察官に送付しなければならない。
(告訴、告発および自首の受理)
第六十三条 司法警察員たる警察官は、告訴、告発または自首をする者があつたときは、管轄区域内の事件であるかどうかを問わず、この節に定めるところにより、これを受理しなければならない。
2 司法巡査たる警察官は、告訴、告発または自首をする者があつたときは、直ちに、これを司法警察員たる警察官に移さなければならない。
告訴状については、提出がなされると警察に捜査義務が生じる関係上、警察が、捜査義務の発生を回避するために、そもそも、受理をしない可能性もあります。
また、法律に明るくない人が告訴状を提出しても、法律的に正しくない内容が含まれてしまう可能性もあります。
そのため、転売ヤーの悪質な行為に対して、告訴状を提出する場合には、弁護士に相談をして、告訴状の作成・提出をしてもらうことをオススメします。
転売ヤーの悪質な行為に対して、二度と同じような行為を行わないように、弁護士名義で警告書を送付することが考えられます。
また、転売ヤーの悪質な行為により、何らかの損害を被った、又は、商品代金の支払いがなされていないというようなケースでは、転売ヤーに対して、損害の賠償を請求する、又は、商品代金の支払いを請求することが考えられます。
ただ、このような請求を行うためには、転売ヤーの氏名や住所を把握する必要があります。
転売ヤーの氏名や住所を調査する方法については、いくつか考えられますので、以下で紹介します。
一般の人が、転売ヤーの氏名や住所の調査をしようと思っても、なかなか難しいのが現状です。
そこで、弁護士に依頼し、転売ヤーの氏名や住所を調査することが考えられます。
弁護士による調査は、以下の弁護士法第23条の2に基づくことから、23条照会と呼ばれたり、弁護士会照会と呼ばれたりします。
(報告の請求)
第二十三条の二 弁護士は、受任している事件について、所属弁護士会に対し、公務所又は公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることを申し出ることができる。申出があつた場合において、当該弁護士会は、その申出が適当でないと認めるときは、これを拒絶することができる。
2 弁護士会は、前項の規定による申出に基き、公務所又は公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることができる。
この方法により、例えば、転売ヤーの住所が判明しているのであれば、転売ヤーが居住するマンションの管理会社に対して、転売ヤーの氏名等の開示を求めることが考えられます。
また、転売ヤーの携帯電話の電話番号が判明している場合には、携帯電話会社に対して、転売ヤーの氏名や住所等の開示を求めることが考えられます。
弁護士に依頼する方法以外では、探偵や調査会社に依頼をするという方法も考えられます。
ケースによっては、探偵や調査会社の方が詳しい情報を収集してくれるケースもありますので、必要に応じて、自分で対応するのか、弁護士に依頼するのか、探偵や調査会社に依頼するのかを判断する必要があります。
転売ヤーの氏名や住所を調査し、氏名や住所が判明すれば、転売ヤーに対して、弁護士名義で警告書を送付することも考えられます。
弁護士名義の警告書であれば、転売ヤーに対して、心理的な圧力を加えることができ、転売ヤーが、自らが行った行為を反省し、真摯に対応するケースもあります。
ただ、弁護士名義での警告書が届いたことにより、転売ヤーが、販売者からの請求を免れる目的や警察からの捜査を免れる目的で住所を変更してしまう可能性もあります。そのため、弁護士に依頼し警告書を送る場合には、弁護士によく相談し、対応方法を検討する必要があります。
以上、本記事では、具体的な転売の法律問題に加えて、転売ヤーの悪質な行為に対して、どのように対応するべきかという視点からも解説しました。
転売ヤーは、悪質な行為を行っていると、本記事で、紹介したような方法により、販売者から、責任を追及される可能性があります。
また、販売者は、転売ヤーへの対応に追われることとなり、不要な負担を負わせる結果となります。
そのため、現在、転売を行っている人は、ハイリスクな転売を行うよりも、法律にしたがう形で安心に取引を行うことができるサイトを利用した方が、無駄なトラブルに巻き込まれることなく、適正に利益を得ることができます。